2025/04/17
海外現地法人の“給与レンジ”はどう決める? 現地マーケットと本社期待値のすり合わせ
グローバル人事に携わる中で、各国現地法人の給与レンジ設定は避けて通れない論点です。単に「現地の相場を見て決めればいい」という話ではなく、本社としての報酬戦略や人材ポリシーとも密接に絡むため、実務としては調整と交渉の連続になります。
ベンチマークはどこを見る?
現地給与レンジを検討する際、以下のような情報を組み合わせて検討することが一般的です。
・現地の報酬サーベイデータ(例:Mercer、Willis Towers Watson など)
・競合他社や同業の給与情報 ・現地スタッフの定着率や退職理由
・必要人材の希少性やスキル要件 ・為替変動や物価水準(COLA)
とはいえ、現地マーケットデータの「中央値」に安易に合わせてしまうと、優秀人材を採れなかったり、離職が止まらないといった事態にもつながります。本社の期待する人材像と現地の実態がズレていれば、マーケットレンジと本社想定レンジのギャップも大きくなります。
「統一感」と「現地最適」の間で揺れる設計方針
本社側には「グローバル共通のグレード制度と報酬方針を適用したい」という意向がある一方、現地法人としては「自国の実情に合わないグレードやレンジでは優秀人材が取れない」という声が上がります。
たとえば、ASEAN地域の新興国では、職位よりも「個別スキル」や「転職回数の多さ」などで給与水準が大きくブレやすく、グレード制度が現地に定着しにくいという声もあります。
こうした場合は、まずは大まかな帯域を定めた上で、個別職務評価や職務記述書(JD)を現地マネジメントとすり合わせながら、例外運用のルールも含めた調整が求められます。
本社の「投資期待値」との整合性
たとえば、新興市場への進出時、「この地域では給与が安いから」とコストドリブンで人員を配置しすぎると、将来的なブランド毀損や人材流出リスクが高まることもあります。
逆に、海外拠点での幹部採用やスキル人材確保のために現地レンジを大きく外れた高給でオファーを出すと、本社側での整合性が取れず、社内制度に対する不信感が生じることもあります。
特に、IFRSまたはJGAAPベースでの人件費管理や開示を意識する上場企業においては、単なる現地最適では済まされず、本社財務や経営企画との連携も不可欠です。
「現場感のある制度設計」のために
現地に赴き、実際にマネージャーや従業員と対話を重ねることで、給与に対する期待値や不満、報酬の内訳(固定給 vs ボーナス、現物給付など)といった、数字だけでは読み取れない肌感覚が見えてきます。
特に、現地側に人事担当が不在、あるいは経理や法務が兼務しているケースでは、制度の運用が形骸化しやすく、人材の流動性に歯止めがかかりません。本社人事としての伴走が重要です。
最後に
海外現地法人の給与レンジ設定は、「マーケット情報を見る」以上に、各国との調整・説得・理解促進といった“人事としての交渉力”が試される領域です。
制度設計の正解は一つではありませんが、「なぜその水準なのか」を現地と本社の双方で腹落ちさせるプロセスが、制度の実効性を支える鍵となります。
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