2025/04/10投稿者:スタッフ

海外現地法人とのガバナンス連携。「任せる」と「統制」の境界線をどう引くか?

グローバルに事業を展開する企業にとって、海外現地法人とのガバナンス連携は極めて重要です。特に人事・労務の領域では、現地に任せすぎるとコンプライアンスリスクが高まり、本社が統制しすぎるとスピードや柔軟性が損なわれます。この“ちょうどいい距離感”のマネジメントは、実務上、常に悩ましい課題です。

 

よくある課題:任せすぎて発生する“ほころび”

・法改正に対応できていない(例:現地の休暇制度や最低賃金の変更に未対応)
・ローカルマネージャーによる独自運用が広がり、企業全体としての整合性が取れなくなる
・本社側に情報が届かず、監査・内部統制の観点でリスクが顕在化する

特に現地の“解釈”がずれることによって、本社が意図していなかった雇用リスクや税務上の問題が生じるケースも見られます。たとえば、「成果主義報酬」として導入した制度が、現地では“年功的”に運用されていたり、同一労働同一賃金の原則に抵触するような処遇差が放置されていたりする事例です。

 

 

一方で統制を強めすぎると…

・現地の法制度や商習慣との齟齬で制度が機能しない
・本社承認のプロセスが煩雑で、対応が遅れ事業に支障が出る
・「日本的なやり方を押し付けてくる」という不満やモチベーション低下が発生する

統制強化のために導入したチェック体制が、かえって“本社への報告のための作業”になり、現地側にとって意味のない負荷になることもあります。

 

 

ではどうすべきか?──共通ルールと現地裁量のバランス設計

以下のような実践が、実務では有効です:

リスク起点でのガイドライン設計(例:報酬制度は現地任せだが、昇給率や等級構造は範囲を設定)
モニタリング体制の確立(例:四半期ごとにHRガバナンスに関するセルフチェックリストを提出)
現地のHRとの定期的な対話(例:コンプライアンス・報酬・働き方などテーマ別ミーティング)
ローカルの規定・運用を英語で可視化し、グループ全体で共有

 

また、会計制度の観点では、IFRSとJGAAPの差異が報酬・福利厚生などの扱いに影響する場面もあります。たとえば、退職給付制度や従業員ストックオプションなど、制度導入のインパクトが国ごとに異なるため、財務・人事の連携が欠かせません。

 

 

現場でのリアルな知見

・ASEAN地域では法改正の頻度が高く、現地頼りでは追いきれない(実際に本社側で法改正速報を日本語でまとめて展開)
・EUでは従業員代表制など、ローカル特有のガバナンス慣習があり、単純な移植が困難(現地の法律事務所と契約して個別相談)
・米国では州ごとに雇用法が異なるため、“アメリカ”として一括でルールを決めると破綻する


まとめ:グローバル化の先にある“統制可能な分権”

「現地に任せること」と「本社が見ていること」は両立し得ます。そのためには、全社共通の価値観を土台としつつ、**制度・運用レベルでは明確な“線引き”と“レビューの仕組み”**を用意する必要があります。

ガバナンスとは、抑え込むことではなく“健全な状態を保つしくみ”です。本社と現地が共に成長するパートナーとして機能するために、制度と人の両面から見直しを進めていきましょう。

 

 

 

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