2025/04/05
現地法人のHRとどう連携する? 本社グローバル人事が直面する調整実務
海外展開が進む企業にとって、「グローバル人事の実務」は重要なテーマです。特に、本社と現地法人との連携においては、評価制度や報酬設計、日常オペレーションなど、複数の論点が複雑に絡み合います。制度をつくって終わりではなく、“運用のリアル”に踏み込む姿勢が求められます。
本記事では、実務でよく直面する「調整の壁」にフォーカスし、現場で求められる工夫と対話のあり方を考察します。
評価制度──「同じ言葉」をどう翻訳するか
日系企業の多くが本社で設計した評価制度を現地法人にも展開しようとしますが、その際に起きやすいのが“評価軸のズレ”です。
たとえば「成果主義」や「コンピテンシー評価」といった考え方自体が、国や地域によって意味合いが異なることがあります。これを解消せずに制度だけ導入しても、評価の納得感は生まれません。
よくある課題:
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成果主義の“成果”が数字ではなく関係性や過程重視な文化もある
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フィードバック文化が希薄な地域では、定期評価が形式化しやすい
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管理職と現場で評価基準の理解が乖離してしまう
現場での対応策:
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制度の「背景と目的」を現地HRと共有するワークショップの実施
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現地で使われる評価言語や事例を織り込んだ評価マニュアルの作成
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パイロット導入による現地フィードバックの収集と反映
"評価制度は設計よりも運用設計"とよく言われますが、実際には「説明と浸透」に人事の本当の力量が問われます。
報酬制度──“本社基準”は万能ではない
報酬制度においても、現地法人との調整は避けて通れません。たとえば、本社のグレード制やインセンティブスキームをそのまま適用しようとすると、現地の法規制や文化とのミスマッチが発生することがあります。
具体的に起きがちなトラブル:
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固定給/変動給のバランスに対する感覚の違い
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福利厚生の制度設計が現地慣習とズレてしまう
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現地の税制や為替レートを反映しない報酬制度になってしまう
対応のポイント:
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外部調査(例:マーサー、ウィリス・タワーズワトソン)などを活用し、現地の報酬相場を把握
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"現地での運用責任者"を立て、本社と密に連携しながら制度調整を進める
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現地の法令チェックと、外部ベンダーの活用(給与アウトソーシングなど)
報酬制度は、従業員の信頼や定着率にも直結する要素です。納得感のある制度運用を目指すためには、"現地法人を巻き込んだ設計プロセス"が必須です。
実務の連携──責任範囲と情報共有の設計
評価・報酬と並んで課題になりやすいのが、日常オペレーションにおける「責任の曖昧さ」です。勤怠管理や人事データの管理、労務問題への対応など、実務は細かくかつ頻度も高い。ここにほころびが出ると、信頼関係にも影響します。
よくあるつまずき:
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どの業務が本社管轄か、現地管轄かがあいまい
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同じ内容を本社と現地で二重に処理してしまう
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労務トラブルが起きたときの初動対応が遅れる
解決に向けたアプローチ:
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RACIチャート(責任分解マトリクス)の導入
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本社・現地間の定例ミーティング(週次や月次)と議事録の共有
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グローバル共通の人事システム導入によるデータ一元管理
形式的な「制度整備」ではなく、“誰が何をどう動かすか”の設計こそが、実務レベルでのグローバル連携には欠かせません。
まとめ ─ グローバル人事は「制度を届ける仕事」ではない
本社と現地の人事連携は、「制度を伝える」だけの仕事ではありません。むしろ、それぞれの背景・文化・事情を踏まえながら、“なぜそれが必要なのか”を丁寧に伝え、現地の理解を得ながら一緒に運用していく姿勢が問われます。
制度はあくまでフレームであり、成功の鍵を握るのは“制度と人の間にある対話”です。
グローバル人事に携わる以上、求められるのは設計スキルだけではなく、各国との協調性、課題への感度、そして「運用こそ本番」という意識なのかもしれません。
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