2024/11/20
海外からのフルリモート勤務が可能な求人が少ない理由について考察
リモートワークが普及する中、「海外からのフルリモート勤務」が可能な求人を探している人は少なくありません。しかし、現実には、こうした求人は非常に限られているのが現状です。
本記事では、なぜ海外からのフルリモート勤務可能な求人が少ないのか、その理由を多角的に考察します。
1. 法的・税制面の課題
雇用主の法的負担
企業が社員を海外から雇用する場合、雇用契約がどの国の法律に準拠するかが問題になります。労働法や社会保険の適用範囲が異なるため、企業にとっては法的リスクが高まります。
•社会保険の適用:海外から働く社員に対して、どの国で社会保険料を支払うべきかが複雑。
•雇用契約の形式:社員が住む国の法律に準拠する必要がある場合、追加の契約や法的措置が求められます。
税務の複雑さ
海外勤務者を雇うことで、企業側に以下の税務リスクが生じます:
•常設事務所(PE)問題:リモートワーカーが居住している国で、企業が「課税対象の拠点」と見なされる可能性。
•個人所得税の問題:社員が現地の所得税を正確に支払う必要があるが、その管理は企業にとって負担。
2. コミュニケーションと文化的課題
タイムゾーンの違い
タイムゾーンの違いは、企業にとって大きな障害です。例えば、日本の企業が北米在住のフルリモート社員を雇う場合、業務時間が重ならず、リアルタイムでのやり取りが困難です。
(どちらかが早朝・深夜の時間帯に対応必要となる、など)
•業務効率の低下:スムーズなコミュニケーションが取れず、プロジェクト進行が遅れるリスク。
•ミーティングの制約:全社員が参加可能な時間帯に会議を設定するのが難しい。
【比較的、時差が緩やかでリアルタイムでのやり取りが可能な例】
日本時間 AM10:00
→ マレーシア: AM9:00(UTC+8)
→ ベトナム: AM8:00(UTC+7)
→ タイ: AM8:00(UTC+7)
→ シンガポール: AM9:00(UTC+8)
→ インドネシア(ジャカルタ): AM8:00(UTC+7)
→ フィリピン: AM9:00(UTC+8)
→ 中国: AM9:00(UTC+8)
→ 台湾: AM9:00(UTC+8)
→ 香港: AM9:00(UTC+8)
→ 韓国: AM10:00(UTC+9)
→ オーストラリア(シドニー・メルボルン): AM11:00(UTC+11)
日本時間 19:00
→ マレーシア: 18:00(UTC+8)
→ ベトナム: 17:00(UTC+7)
→ タイ: 17:00(UTC+7)
→ シンガポール: 18:00(UTC+8)
→ インドネシア(ジャカルタ): 17:00(UTC+7)
→ フィリピン: 18:00(UTC+8)
→ 中国: 18:00(UTC+8)
→ 台湾: 18:00(UTC+8)
→ 香港: 18:00(UTC+8)
→ 韓国: 19:00(UTC+9)
→ オーストラリア(シドニー・メルボルン): 21:00(UTC+11)
【比較的、時差が大きくリアルタイムでのやり取りが困難な例】
日本時間 AM10:00
→ アメリカ(ニューヨーク): 前日 PM8:00(UTC-5)
→ アメリカ(ロサンゼルス): 前日 PM5:00(UTC-8)
→ カナダ(トロント): 前日 PM8:00(UTC-5)
→ ブラジル(サンパウロ): 前日 PM10:00(UTC-3)
→ イギリス(ロンドン): AM1:00(UTC+0)
→ フランス(パリ): AM2:00(UTC+1)
→ ドイツ(ベルリン): AM2:00(UTC+1)
→ スペイン(マドリード): AM2:00(UTC+1)
→ 南アフリカ(ヨハネスブルグ): AM3:00(UTC+2)
→ アメリカ(ハワイ・ホノルル): 前日 PM4:00(UTC-10)
→ ニュージーランド(オークランド): AM2:00(UTC+13)
日本時間 PM19:00
→ アメリカ(ニューヨーク): AM5:00(UTC-5)
→ アメリカ(ロサンゼルス): AM2:00(UTC-8)
→ カナダ(トロント): AM5:00(UTC-5)
→ ブラジル(サンパウロ): AM7:00(UTC-3)
→ イギリス(ロンドン): AM10:00(UTC+0)
→ フランス(パリ): AM11:00(UTC+1)
→ ドイツ(ベルリン): AM11:00(UTC+1)
→ スペイン(マドリード): AM11:00(UTC+1)
→ 南アフリカ(ヨハネスブルグ): AM12:00(UTC+2)
→ アメリカ(ハワイ・ホノルル): AM12:00(UTC-10)
→ ニュージーランド(オークランド): PM11:00(UTC+13)
3. セキュリティとITインフラの課題
データセキュリティ
リモート勤務者が海外からアクセスする場合、データの安全性を確保するのが難しくなります。
•ネットワークの脆弱性:海外のインターネット環境は、日本と比較してセキュリティが低い場合がある。
•データ保護法の違い:各国の個人情報保護法(GDPRなど)への対応が必要。
ITサポートの制約
遠隔地のリモートワーカーに対するITサポートは、企業にとって大きな負担です。
•トラブル対応の遅延:リモートワーカーの時間帯に合わせたサポートが困難。
•設備の管理:会社支給のPCやソフトウェアのメンテナンスが難しい。
4. コストの問題
雇用コストの上昇
フルリモート勤務者に対して、現地の生活費に応じた給与調整を求められることがあります。
•現地給与水準の差異:高所得国で働く社員に合わせた給与設定が企業にとって負担。
•福利厚生の調整:海外勤務者特有の手当や福利厚生が必要になるケース。
減税メリットの喪失
国内で社員を雇う場合、企業は特定の税制優遇を受けることがありますが、海外勤務者には適用されないことが一般的です。
5. 採用プロセスの課題
現地での採用プロセス
海外在住者の採用では、面接やオンボーディングの過程で以下の問題が発生します:
•面接の難しさ:オファー面談や最終面接での対面ができずスムーズで質の良い採用プロセスが進まない可能。
•入社後の研修:リモートでの研修が不十分になる可能性。
評価制度の難しさ
リモートワーカーの業務を公平に評価するための基準を整備するのは、企業にとって大きな課題です。
6. それでもフルリモートを採用する企業の特徴
海外からのフルリモート勤務を許容している企業には、次のような特徴があります:
•グローバル化が進んでいる:海外拠点が多数あり、国際的な採用体制が整備されている。
•デジタルネイティブな企業:セキュリティやITインフラへの投資を惜しまない。
•アウトプット重視の文化:勤務時間よりも成果を評価する仕組みが整っている。
7. 今後の展望
テクノロジーの進化や法整備が進むことで、海外からのフルリモート勤務の可能性は広がると考えられます。特に、次のような動きが注目されます:
•クラウド技術の進化:セキュリティやデータ管理がより簡便に。
•各国での法改正:国際的なリモートワークに適応した労働法の整備。
•グローバル人材の需要増加:特定分野の専門人材が不足する中、国を越えた採用が進む。
まとめ
海外からのフルリモート勤務可能な求人が少ない理由には、法的・税制面の課題、タイムゾーンや文化のギャップ、セキュリティ問題、コスト負担など多くの要因が絡んでいます。しかし、デジタル技術の進化や労働市場の変化により、こうした制約は徐々に緩和されるでしょう。
企業としては、課題を認識しつつ、グローバル化の波に乗る準備を進めることが必要です。また、求職者にとっても、これらの制約を理解し、適応するスキルやアプローチが求められる時代になりつつあります。